効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (4/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

4. 最小情報原則を守るべし

学習内容は できるだけシンプルな形で定式化すべきです。これは、情報を失ったり 難しい部分を飛ばす という意味ではありません。シンプルさが重要である理由は、脳の働き方です。主な理由は 2つあります。

シンプルなものは簡単である

定義より、シンプルな教材は記憶しやすい。その理由は、シンプルなものを脳が処理するとき、処理がいつも一定の手順で行われるからです。迷路を想像してください。教材を復習するとき、あなたの脳は迷路の中を走り回ります (脳神経網は絡み合った道のように見えます)。迷路を走るあいだ、脳は壁に目印をつけていきます。目的地までの道順が ただひとつしかない場合、その道は簡単に たどれるでしょう。目的地までの道順がいくつもありうるとき、壁の目印は道順ごとに異なったものになります。目印は他の目印と干渉するので、出口を見つけるのが難しくなります。これと同様のことが脳細胞でも起こります。複雑な教材を復習すると、毎回異なったシナプス結合が発火してしまうのです。

シンプルなアイテムは、復習をスケジューリングしやすい

以下を想定します: 復習のタイミングは最適化されている (SuperMemoのように)。2つの部分からなるアイテムを考えましょう。もっと難しい題材に進むには、十分な頻度で この2つのアイテムを復習する必要があります。複雑なアイテムをいくつかのサブアイテムに分割すれば、サブアイテムはそれぞれ独立したペースで復習できるので、時間が節約できます。よくあることですが、経験の少ない学習者は 複雑なアイテムを作ってしまいます。それは10個以上のシンプルなサブアイテムに分割できるくらい複雑だったりします。サブアイテムに分割すると、アイテムの個数は増えます。しかし個々のアイテムが要する復習回数を 大幅に節約できます。それに比べて、アイテム分割をしなかった場合は 以下のコストを強いられます。 (1) 複雑なアイテムを何度も忘れる (2) 過度に短い間隔で復習が必要になる (3) 実は複雑なアイテムの一部分しか記憶してなかった!


ここに著しい例があります:

うまく定式化されていない知識 - 複雑で長い

Q: 死海 の特徴は?
A: 塩湖であり、イスラエルとヨルダンの国境にある。その湖岸線は地表の最低点であり、平均して海抜マイナス396mである。長さは74km。海水の7倍の塩を含む(体積比30%)。比重が大きいので人が簡単に浮く。この濃い塩水の中で生きているのは単純な生命体だけである。

うまく定式化された知識 - シンプルで明確

Q: 死海はどこにある?
A: イスラエルとヨルダンの国境


Q: 地表の最低点はどこ?
A: 死海の湖岸線


Q: 死海の湖岸の平均高度は?
A: 海抜マイナス400m


Q: 死海の長さは?
A: 70km


Q: 死海の水は 海水に比べて どれくらい塩分が多い?
A: 7倍


Q: 死海の水に含まれる塩分は、体積比でどれくらい?
A: 30%


Q: 死海で人が浮くのはなぜ?
A: 塩分が濃いから


Q: 死海が「死」と呼ばれるのはなぜ?
A: その中では単純な生物しか生きられないから


Q: 死海の中で単純な生物しか生きられないのはなぜ?
A: 塩分が濃いから


最小情報原則によって どんな利益があるのか、上記の 2つのアプローチを使って、あなた自身で実験してみたいと思いませんか。長い目で見れば かなりの差が表れます。つまり、知識を長いあいだ維持する必要があるほど、アイテムをシンプルにすることの利益は大きくなります。


上記の例で、質問文が短いことに注目してください。また、答えはさらに短いことに注目してください! 復習するときに 記憶から呼び出される情報を 最小量にしたいのです。答えは 可能な限り短くしたいのです!


うまい定式化・うまくない定式化 の例で、この2つが持つ情報が完全に同一というわけではない ことに気付いたでしょう。例えば、死海で人が浮く 理由 を記憶できたとしても、死海で人が浮く という事実 を忘れるかもしれないのです! また、396m を 400m に、74km を 70km に丸めたので、情報が少なくなっています。この欠点を補うには、別の質問を追加したり、いまある質問をもっと精確にするといいでしょう。


また欠点として、先生に呼ばれて黒板の前に立たされ 死海の説明をしなさいと言われたとき、流暢にしゃべれない というのがあります。しかし 教室の前で輝くことが あなたの究極の学習目標ではないでしょう。詩などの暗唱をうまくやる方法を知りたければ、この記事の後半を読んでください (列挙 について書かれたセクション)。