効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (2/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

2. 記憶する前に 全体を学習せよ

個々の事実や法則を記憶する前に まず、学習した知識の全体像をつかむ必要があります。一貫性のある知識構造のなかに 個々の知識のピースが うまく はまると、学習に要する時間を大幅に節約できます。これはルール1「理解していないものを 暗記してはいけない」と密接な関係があります。全体像のなかの 一つの知識のピースは、歴史の教科書の中にある一単語と似ています。

事実どうしの関連性が弱いまま 記憶しようとしないでください! まずは その本の ひとつの章を通して読み、事実の断片をつなぎ合わせてください (例: 内燃機関の動作原理)。個々の Q&A (例: 内燃機関のピストンを動かすのは何?) などを使って学習を始めるのは、その後にしてください

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (3/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

3. 基本の上に積み重ねよ

ルール2「記憶する前に 全体を学習せよ」で、全体像を把握すべしと論じました。この全体像は、細部にわたるまで完璧でなくてもかまいません。


むしろ逆で、全体像がシンプルであるほど良いです。本の最初の章は 短いほど良いです。シンプルなモデルは簡単に理解できます。そのあとで、その上に詳細を積み上げればよいのです。


基本を怠らないでください。一見 明らかなことを記憶するのは、時間の無駄ではありません! 簡単なことを記憶することは短時間でできます。易しい側・難しい側 のどちらに道を誤るのがいいかといえば、易しい側のほうがいいです。注意してください、学習時間の50%は 学習内容のうち3〜5%を復習することに費やされます [ソースはここ]! 基本的なことを記憶するのは簡単で、時間をあまり食いません。しかし逆に、基本を忘れると 大きな時間のロスになります!

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (4/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

4. 最小情報原則を守るべし

学習内容は できるだけシンプルな形で定式化すべきです。これは、情報を失ったり 難しい部分を飛ばす という意味ではありません。シンプルさが重要である理由は、脳の働き方です。主な理由は 2つあります。

シンプルなものは簡単である

定義より、シンプルな教材は記憶しやすい。その理由は、シンプルなものを脳が処理するとき、処理がいつも一定の手順で行われるからです。迷路を想像してください。教材を復習するとき、あなたの脳は迷路の中を走り回ります (脳神経網は絡み合った道のように見えます)。迷路を走るあいだ、脳は壁に目印をつけていきます。目的地までの道順が ただひとつしかない場合、その道は簡単に たどれるでしょう。目的地までの道順がいくつもありうるとき、壁の目印は道順ごとに異なったものになります。目印は他の目印と干渉するので、出口を見つけるのが難しくなります。これと同様のことが脳細胞でも起こります。複雑な教材を復習すると、毎回異なったシナプス結合が発火してしまうのです。

シンプルなアイテムは、復習をスケジューリングしやすい

以下を想定します: 復習のタイミングは最適化されている (SuperMemoのように)。2つの部分からなるアイテムを考えましょう。もっと難しい題材に進むには、十分な頻度で この2つのアイテムを復習する必要があります。複雑なアイテムをいくつかのサブアイテムに分割すれば、サブアイテムはそれぞれ独立したペースで復習できるので、時間が節約できます。よくあることですが、経験の少ない学習者は 複雑なアイテムを作ってしまいます。それは10個以上のシンプルなサブアイテムに分割できるくらい複雑だったりします。サブアイテムに分割すると、アイテムの個数は増えます。しかし個々のアイテムが要する復習回数を 大幅に節約できます。それに比べて、アイテム分割をしなかった場合は 以下のコストを強いられます。 (1) 複雑なアイテムを何度も忘れる (2) 過度に短い間隔で復習が必要になる (3) 実は複雑なアイテムの一部分しか記憶してなかった!


ここに著しい例があります:

うまく定式化されていない知識 - 複雑で長い

Q: 死海 の特徴は?
A: 塩湖であり、イスラエルとヨルダンの国境にある。その湖岸線は地表の最低点であり、平均して海抜マイナス396mである。長さは74km。海水の7倍の塩を含む(体積比30%)。比重が大きいので人が簡単に浮く。この濃い塩水の中で生きているのは単純な生命体だけである。

うまく定式化された知識 - シンプルで明確

Q: 死海はどこにある?
A: イスラエルとヨルダンの国境


Q: 地表の最低点はどこ?
A: 死海の湖岸線


Q: 死海の湖岸の平均高度は?
A: 海抜マイナス400m


Q: 死海の長さは?
A: 70km


Q: 死海の水は 海水に比べて どれくらい塩分が多い?
A: 7倍


Q: 死海の水に含まれる塩分は、体積比でどれくらい?
A: 30%


Q: 死海で人が浮くのはなぜ?
A: 塩分が濃いから


Q: 死海が「死」と呼ばれるのはなぜ?
A: その中では単純な生物しか生きられないから


Q: 死海の中で単純な生物しか生きられないのはなぜ?
A: 塩分が濃いから


最小情報原則によって どんな利益があるのか、上記の 2つのアプローチを使って、あなた自身で実験してみたいと思いませんか。長い目で見れば かなりの差が表れます。つまり、知識を長いあいだ維持する必要があるほど、アイテムをシンプルにすることの利益は大きくなります。


上記の例で、質問文が短いことに注目してください。また、答えはさらに短いことに注目してください! 復習するときに 記憶から呼び出される情報を 最小量にしたいのです。答えは 可能な限り短くしたいのです!


うまい定式化・うまくない定式化 の例で、この2つが持つ情報が完全に同一というわけではない ことに気付いたでしょう。例えば、死海で人が浮く 理由 を記憶できたとしても、死海で人が浮く という事実 を忘れるかもしれないのです! また、396m を 400m に、74km を 70km に丸めたので、情報が少なくなっています。この欠点を補うには、別の質問を追加したり、いまある質問をもっと精確にするといいでしょう。


また欠点として、先生に呼ばれて黒板の前に立たされ 死海の説明をしなさいと言われたとき、流暢にしゃべれない というのがあります。しかし 教室の前で輝くことが あなたの究極の学習目標ではないでしょう。詩などの暗唱をうまくやる方法を知りたければ、この記事の後半を読んでください (列挙 について書かれたセクション)。

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (5/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

5. 穴埋め問題は簡単・効果的

穴埋め問題 (cloze deletion) は、文章の途中が消されて 3個のドット (...) になっているものです。学習者は (...) の部分に入る言葉を 思い出す練習をします。例: Bill ...[名前] は 告訴された米国大統領の2人目である。


あなたが初心者で、最小情報原則を守るのが難しいと思うなら、穴埋め問題を使ってください! 経験を積んだユーザであっても、穴埋め問題が好きかもしれません。穴埋め問題を使うと、教科書の知識を素早く SRSソフトに取り込むことができます。穴埋め問題は incremental reading と呼ばれる 速読&高速学習法の中核をなすテクニックです。

うまく定式化されていない知識 - 複雑で長い

Q: Kaleida社の歴史は?
A: Kaleida社 は Apple Computer社と IBM社が 4000万ドルを出資して 1991年に設立された。鮮烈なデビューだった。Kaleidaの使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。その間に、Macromedia社やAsymetrix社が市場を席巻した。Kaleida社は1995年に閉鎖された。

うまく定式化された知識 - シンプルな穴埋め問題

Q: Kaleida社 は Apple Computer社と IBM社が ...(金額)を出資して 1991年に設立された。
A: 4000万ドル


Q: Kaleida社 は ...(会社)が 4000万ドルを出資して 1991年に設立された。
A: AppleIBM


Q: Kaleida社 は Apple Computer社と IBM社が 4000万ドルを出資して ...(年)に設立された。
A: 1991


Q: ...(会社)の使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。
A: Kaleida


Q: Kaleidaの使命は ... を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。
A: マルチメディア・プログラミング言語


Q: Kaleidaの使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは ... と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。
A: Script X


Q: Kaleidaの使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には ...(時間)かかった。
A: 3年


Q: Kaleidaの使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。その間に、... が市場を席巻した。
A: Macromedia/Asymetrix


Q: Kaleidaの使命はマルチメディア・プログラミング言語を作ることだった。作られたのは Script X と呼ばれるものだった。しかし開発には 3年かかった。その間に、Macromedia社やAsymetrix社が市場を席巻した。Kaleida社は ...(年)に閉鎖された。
A: 1995

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (6/20)

(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

6. 画像を使え

視覚野は脳の一部分であり、視覚的刺激を解釈する器官です。視覚野は進化の過程で非常に発達してきました。「一枚の絵は千単語の価値がある (百聞は一見にしかず)」ということわざのとおりです。確かに、一枚の画像を見ると たくさんの詳細を読み取ることができます。それらを記憶に保持するのも簡単です。画像処理能力に比べると、人間の言語処理能力はかなり低いことに気付くでしょう。記憶についても同じことが言えます。画像で情報を表現すれば 忘れにくいのです。


しかし、きれいな画像を見つけたり作ったりする作業には時間がかかります。これに対して、シンプルな Q&A形式の問題を作るのは簡単です。このため、教材として画像を使うとき、ほぼ毎回 手間と効果 を天秤にかける必要があります。画像をうまく使うことで大幅に学習時間を節約できそうな科目は、解剖学・地理・幾何学・化学・歴史、その他たくさん です。


画像がもつ力は、Tony Buzan の マインドマップの人気を理由付けます。マインドマップは抽象的な図であり、個々の概念の論理的つながりを表す図です。

効果の少ない定式化

Q: アフリカの国であり、ケニアザンビアモザンビークの間にあるのは?
A: タンザニア

もっと効果的な定式化

Q: この地図で白く塗られた アフリカの国は?

A: タンザニア

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (7/20)

効果的な学習法: 知識を定式化する20個のルール (7/20)


(This is a translation of "Effective learning: Twenty rules of formulating knowledge" by Dr Piotr Wozniak)

7. 記憶術を使え

記憶術は、ものを覚えやすくする 様々なテクニックです。かなりの効果があるときがあります。もし 10歳の子供が 50枚のトランプの並び順を記憶するのを見たら、ほとんどの人は、この子は天才だと思うでしょう。テクニックを学び 少し練習することで こんなことが可能になるのを知ったら、さらに驚くでしょう。このようなテクニックは誰にでも身につけられるもので、特殊技能は要らないのです!


しかし、そういったテクニックを身につけることが、忘却という問題に対する完璧な解決策だ と早とちりしないでください。知識を 長期間 保持して しかも役立てる ためには、素早い記憶だけでは足りないのです。素早い記憶は じつは初歩にすぎないのです。本当に重要なことは、記憶を何ヶ月も 何年も、さらに 一生 忘れないことなのです。これを達成するために、 SuperMemo と この記事に書かれた 20個のルールが必要になるでしょう。


記憶術についての本は たくさんあります。Tony Buzan が書いたものは特に有名です。以下の単語でウェブ検索してください: マインドマップ、peg lists、記憶術、など。


経験によると、少しの練習のあと、学習アイテムのうち 1〜5% には意識的に記憶術を適用する必要があるでしょう。慣れるにつれ、記憶術を使うことは無意識にできるようになります。


典型的なマインドマップ:

http://www.supermemo.com/images/mindmap.jpg